樹幹から椅子を掘り出す彫刻家は普通、完成された椅子を想定し、それの忠実な再現を目指して幹を削り、彫り進める。やがて樹幹から一個の、期待通りの椅子=木彫作品が姿を現す。
白砂勝敏氏は違う。完成形は、氏の頭の中にはない。氏は切り株となってころがっていた樹幹から、樹の生命活動の痕跡を手探る。耳を寄せ、目をこらし、手でじっと触れ、樹の息遣いと成長の勢い(の痕跡)に感応する。彫るべき深さを、遺すべき厚みを、樹は無言で伝える。氏は虚心に応じる。大胆に彫り、繊細にためらい、そして無心に掘っていく。
そうして完成した木彫り椅子は、元の樹幹が有していた成長の特徴を、生命の勢いを、自ずから体現している。その表情豊かな湾曲面に触れた人は、思いがけないやわらかなぬくもりに自然とくつろぐ。
木彫り彫刻のための素材という地位に甘んじでいた樹幹から、白砂勝敏氏は一木一木が固有にもっていた個性を、十全に惹き出している。
楠 一木彫り 2010年制作
K美術館蔵
【図書の森 古文書の番人】
けやき 一木彫り
2010年制作 長野県個人美術館蔵
彫刻を始めたきっかけ
造園業に従事してた頃、道路を広げるために伐採してほしいとのご依頼があり、その中に樹齢300年を超えるヤマモの木があった。そのまま廃棄するには何か心苦しい。
お昼休み なんとなくその木を眺めていると 曲がりくねった幹の部分で椅子ができそうだなと思いつき ちょっと切りにくい場所だったが曲がりを上手く残し持ち帰える事が出来た。
水分をたっぷり含んだ木はとても重く最初はミニユンボでひっくり返したり吊るしたりしながら手探りで椅子をつくった。
初個展を開催した時 ご来館くださった方の中に 「子供のころ良くこのヤマモの木に登り実をとって食べたよ そうか あの木がねぇ 捨てられちまわないで良かったねぇ」という方がおりました。その方は とても懐かしそうに椅子にすわり優しく椅子を撫でていました。
何故だかとても嬉しい感覚になった事を良く覚えています。そして命を繋ぐことについてとても大切なことがあるのではないかと感じた出来事でした。
自分は彫刻するために木を切ることはなく、諸事情により、どうしても切らなければならない樹、倒木、材にならない部分等、木の種類に関係なく自分にご縁のある素材で作品を制作しております。
k.shirasuna
作品タイトル【原始】
一木彫 木彫刻
作品タイトル
【縄文鳥海魚】
楠 一木彫り
2011年制作 個人蔵
作品タイトル
【古代深海魚】
ミズキ 一木彫り
2011年制作
作品タイトル
【Ancient Groove】
一木彫り
2011年制作 祝殿蔵
作品タイトル
【未来から来た古代生命体2】
杉 一木彫り 2012年制作 祝殿蔵